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ちーさんのイイネあつめ

世界中のイイネを求めて

【創作】お菓子な部屋の少女たち

締め切り間に合いませんでしたorz


【第4回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

ネタと出だしだけあがってて、もったいないので全文仕上げました。
こっから作品本文↓

 

 

「 お菓子な部屋の少女たち」

 

 ガラス張りの部屋の中は、明るい光で満ちていた。
 直線的で幾何学的な建物のデザインとは対照的に、中の装飾品は、花かごがあったり、くまの置物があったりして、女性受けしそうな内装に仕上がっている。
 無機質な外見からは想像できないような華々しさだ。
 耳をすませば、中からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。どうやら、中にいるのは数人の女の子らしい。
「あら、あなた、新入りさん? ハートの帽子がなかなに先鋭的ね」
「それに、その黒いドレスにもハート柄が散りばめられてて、えらく派手ねぇ」
「そうなの、そろそろバレンタインだし、ってことで、頂いたの」
 室内で一番若い少女がキャラキャラと明るい笑顔を振りまく。どうやら、自分の新しい衣装が気に入って、嬉しくて仕方がないらしい。周りの言葉などお構いなしにその衣装を魅せつけるかのごとく、周囲をくるくると歩きまわる。あっちで声をかけ、そっちで笑い、せわしないことこの上ない。
 初めに話しかけた二人の少女が、動きまわるハートの少女を見つめながら、眉間に皺を寄せて、ひそひそと話し合っていた。
「なぁに、あれ」
「新人のくせにねぇ」
「どうせ売れ残るに決まってるわ」
「そうよ、そうよ」
 ひそひそひそひそ。
 部屋の空気がなんとなくざわめき始める。
 なんといっても二人の少女、この部屋の重鎮である。ほかの少女たちはハラハラハラハラ。どうなることやらと気が気じゃない。緊張が膨れ上がって、今にも爆発しそうだ。
「新入りさん、あなた──」
「あら? もうお呼びがかかっちゃったっ。もっとこのお洋服を見てもらいたかったのにぃ」
 重鎮二人が新人を締め上げようと声をかけた瞬間。ハートの少女は外からのお呼びを受けて、名残惜しそうな言葉だけを残して、その場からするりと逃げ出してしまった。
 肩透かしをくらったのは、残された少女たちである。不満気に頬を膨らせて、なんとか気持ちを落ち着かせると、やれやれといった口調で声を上げる。
「物珍しさっては、やっぱりひとつの利点ってことね。まぁ、それだけじゃあ、すぐに飽きられちゃうでしょうけど」
 ふっと場の空気が和らぐ。どうやら、一難は去ったらしい。少女たちは各々仲の良い子との会話を再開し、その場に和やかな空気が流れ始める。
 ふぅ、と重鎮の片方──白いドレスを来た少女がため息をついた。
「いやになっちゃう。新人の態度ごときでカリカリしちゃって」
「仕方ないわよ、私たちが新人の頃には、あんな態度、考えられなかったんだから」
「時代は変わる、ってことかしらねぇ。年寄り臭い考え方だこと」
「まぁ、なんだかんだで、歳といえば歳だしねぇ」
 しんみりしてしまった白ドレスの少女に相方の黒いドレスの少女が応じる。こちらは白ドレスよりはあっけらかんとした態度だ。
「あなたは私よりもマシだもの。新入りさんに売れ残るに決まってる、だなんて、売れ残ってるのは私の方だっていうのに」
「まぁまぁ、定番の味っていうのは、そう簡単に忘れ去られないものだって。さすがに、売れ残らないとしても、来年は生き残れないでしょ、あの子だったら」
 なんだか、これはこれで深刻そうである。
 重鎮二人が隅で話をしている間も、一人、また一人とお呼びがかかった少女たちが部屋を出て行く。
 気づけば、部屋には二人だけ。
 外もずいぶんと暗くなってしまった。
「今日は二人仲良くってことかしらねぇ」
 白ドレスがちょっとホッとしたように囁く。
「かもねぇ」
 白ドレスの顔を見て、黒ドレスも嬉しそうにそうつぶやいた。
「あ」
 それだというのに、
「お呼び、かかっちゃったかぁ」
 黒ドレスにお呼びがかかった。
「じゃあ、仕方がないから行ってきます。じゃぁねー」
 少し名残惜しそうに、だからといって、下手な慰めの言葉は言わず、黒ドレスの少女は颯爽と部屋から出て行った。
 残されたのは、白ドレスの少女ただ一人。
 悲しげにドレスの裾がひらりと揺れる。
「まったく、あの子ったら、悲しむ暇すらないじゃない」
 すんと鼻をすする。
「ちょっとくらい、泣かせてくれたっていいじゃない」
 ぽたり、と雫が床に落ちる。
「一人は、寂しいのよ。もうこれ以上、一人は嫌なのよ」
 ここ最近は、毎日売れ残っていた。
 そもそもお客さんの多いクリスマスシーズンはよかった。
 年末年始も人が集まる機会だから、人通りが多かった。
 でも、それが終わるとぱたりと売れ残るようになった。
 飽きられたド定番。
 他の子達に言う悪口は、全部、本当は自分に言いたいこと。
 自分じゃあ、どうにもできないから、他の子達に当たるしかない。
「こんなんじゃ、売れ残って当然か」
 外はすっかり真っ暗で、もはやお呼びがかかる望みもない。
 白いドレスの少女は、諦めたように床に寝そべり、今日の終わりを待った。

……

「すいません、まだ、ありますか?」

 誰かの声が聞こえる。

「これだけしかないんですけど」
「いいです。むしろ、ちょうどこれが欲しかったんです」

 この声は、もしかして。

「じゃあ、お包みしますので、少々お待ちください」

 呼ばれているの、私?

「売れ残らなくてよかったなぁ」
「いやぁ、むしろ、残っててくれてよかった。彼女が好きなんですよ、これ」
「そうですか。それなら、本当にちょうどよかった。どうぞ、420円です」
「ありがとうございます」

 じゃあ、いこうか、ショートケーキさん。

 

 

ケーキ屋のショーケースの中を擬人化したら、というテーマで書いてみました。

 

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